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COG > Report > 2009 EUROBIKE -ノルウェー・オスロ-
 

ノルウェー・オスロ

 福祉国家で生活水準が高く例としてその数値を新聞記事で見たり、社会面でも男女均等が浸透していたり、芸術・デザインも優れている...そんなイメージのノルウェー。
私が2000年に自転車で旅をした際に訪れた最も北の国はデンマーク。
その時に会ったサイクリストから聞いたのは、
「ノルウェーは、テント張り放題。どこでもOKなんだよ。」
いつかは行ってみたい。理想的な国として上げられる、その環境を自分の目で見てみたい。街の人々は、どんな風に自転車に乗っているのか、交通事情はどうなのか、自転車の理想のスタイルがそこにあるかもしれないと、ユーロバイク出張のついでに足を伸ばした。

シティサイクル「スマートバイク」
以前ウィーンやチューリッヒでも見た公共レンタルバイク。
このシステムは、2001年にノルウェーで開発されオスロで利用が始まった。(ノルウェー大使館ホームページ参照)
実際にどんな環境でどのように使われているか体験してきた。

オスロの街に2ヶ所あるインフォメーションセンター(観光案内所)でカードを借りる。そのカードは24時間有効で、再びインフォメーションセンターへ返却しなければならない。(カードは、80クローネ約¥1,280円)
「カードを返却しなければ、500クローネ(約¥8,000円)。もしバイクを失くしたら、3525クローネ(約¥52,000円)をクレジットカードから引き落としします。」
クレジットカードの番号を控えられ用紙にサインをする。
オスロの街で100ヶ所以上あるスマートバイク設置箇所。1回の利用は3時間以内。借りた場所でないところへ返却できるシステムだ。
街中で自転車を利用している人を見ると、全体の1割くらいの人がスマートバイクを利用している。旅行者だけでなく、生活の足として中心地へ通勤する人が多い。
5〜10キロくらいは、自転車の移動は当たり前という基盤があるからだろう。
設置箇所で私も利用しようとするが、その前にバイクが並んでいる一番はじのバイクは、チェーンが外れて錆びている。このバイクに当たったら、どうしようか(バイクは自分で自由に選べるわけではないのだ)。1台1台タイヤの空気を確認する。ヘルメットとポンプやチューブを持っていないことにも、石畳の道路で路面電車のレーンもあり、小雨がパラつきすべりやすくなっていることにも不安が残る。
カードをシステムにかざすと、番号が表示され、その番号のバイクのロックが解除される。そのバイクを抜き取り、サドルの高さを合わせる。錆び付いてなかなか動かない。
思ったよりもタイヤが太く、丈夫そうでよかった。
街中は坂道が多く、バイクにはギアが3段あり、変速し活用した。
雨が強くなってきたのでバイクを返そうとしたが近くの設置箇所は満車で返却するスペースがない。いくつか周ったが、空きがなく結局元の場所まで行ってバイクを戻した。
もし途中で寄り道したいときは、ワイヤー鍵が必要だ。

その後、郊外へ向けて歩いた。
住宅街でスマートバイク設置箇所があったが、夕刻とあってかバイクは3台しかない。
すると、バイクを積んだトラックがきて、補充していた。
補充し終わりトラックが去った後、帰宅する人が戻ってきてバイクを置いていた。
なくなっていたバイクがすべて戻ったら、置く場所がないと思う。
また、他の場所で普通の駐輪場にスマートバイクが置いてあった。

日本に導入するとしたら、私なりに考えてみた。
このシステムがオスロで成功しているのは、人々が普段から自転車を大切に乗っていて、10キロくらいの距離の移動は当たり前という基盤があるからだと思った。
日本と比較すると人口の少なさが幸いして、複雑なことはなくストレスもなく利用できるのだろう。インフラ面では、土地のスペースに余裕がなければ、余ったバイクが置けなかったり、補充の対応も機敏にできないと思う。
管理面では、カードのシステムだけでなく自転車の点検もやっていかなければ、良いシステムを導入しても、良い活用につながらないだろうと思った。
自転車を大切にすること、自転車のルールを知らせなければ、乗り捨てや駅前にあるような鉄くずになってしまう自転車になりかねない。
わかりやすい利用システムと同時に自転車がどこをどうやって走るかといったリーフレットなどをできるだけ多く配って、自転車を使わない人にも理解を深めて日本の自転車文化を作っていく必要性があると思った。

オスロの自転車環境
1.道路
街の中心部は路面電車(トラム)と車が通るくらいで自転車専用レーンはなかった。
路面が良くなかったり、歩道との段差はあり、あちらこちらが工事中。
ほんのわずかだったが歩道を走ったり、車道を逆走していた人も見かけた。
住宅街の大きな道では、自転車用道路はあったがドイツやオランダのようなスピードではなく、ゆっくりとしたスピードだった。

2.車種
圧倒的にマウンテンバイクが多い。
街の中心部の道は、石畳や路面電車のレーンがあり坂道も多いことから、マウンテンバイクが良い選択となるだろう。
他は実用的な一般自転車が多かった。
ロードバイクは、メッセンジャーと数人しか見なかった。
メーカーはSCOTTが多かった。日本でも見なくなった「ニシキ」をよく見た。それと「フジ」など日本のブランドもあった。

3.信号
交差点の信号が変わるとき、わずかに歩道の信号機が早く青へ変わる。
赤へ変わるとき、車の信号より歩行者の信号がわずかに遅い。
歩行者が優先しているのがわかる。
赤でも車が来ないときは、歩行者は渡る。
赤で待っていた私は、周りの人が行けるとせかされる。

4.朝の通勤時間
住宅街から街の中心地へ向かう車で渋滞する中、自転車通勤する人は多い。
男性ばかりでなく女性も多い。
スタイルも様々。スポーツタイプ(サイクルパンツにビンディング)、カジュアル、スーツスタイルなど。
スポーツスタイルの人は、ほとんどヘルメットをかぶっている。

5.駐輪
歩道のスペースに駐輪が設けられている。ただ、置き方が揃ってはいない。
サドルをシートポストから抜いて盗難を防止しているようだ。
駐輪スペースに置いていない自転車も多いが、広さがあり自転車の量もそれほど多くないでの問題なさそう。

6.自転車屋さん
何店か見て回った。ほとんどがアウトドアショップと併設されていた。
マウンテンバイクが多く、ロードバイクは隅のほうに数台あるだけだった。
用品やウエアは、日本ほど商品の数は多くないので選択肢がない。
日本の自転車屋さんがいろいろと品数が揃っていると思った。

まとめ
行ったことがない国へ行ってみて、改めて西欧のオランダ、ドイツ、スイスが自転車先進国であることがわかった。
オスロの街中は、スマートバイクが導入されてから整備されたような駐輪スペースが活用されていなく、その辺に置いている自転車は多い。
けれども歩けなくなるほど溢れる量でもないし、広さも十分にあるからそれほど気にならない。だから、それ以上、文化は進まないのではないだろうか。
インフラを整えても、自転車が流通しても、意識や文化は人が作っていかなければ成り立たないと感じた。

日本の都市部では急にスポーツバイクが増えだした。
一般車からスポーツバイクに乗り換えたというだけで、人の意識は変わっていない。
ある朝、幹線道路で通勤自転車に遭遇したことがあるが、ほどんどの人が赤信号で止まらない。かえって止まる私が危ないようで驚いた。
歩道をスピードを出して走る自転車も多い。ついでにおまわりさんも自転車で歩道を走る(ゆっくり走ればいいのか)。お手本となるのは何か。
自転車事故が増え続けているとニュースは絶えない。
海外での事例があってもそのまま取り入れるのは難しい。なぜなら自転車の文化が違い過ぎる。日本独特の道路の造りや信号のシステム、そして一般自転車が多くその適当なルールが根付いているからだ。
そこから変わろうとしている今、限られた広さの道で自転車事故を少なくするためにも、自転車は車道の左側を走ることと自転車のルールがあることをひとりひとりが理解して、意識を変えていかなければ日本の自転車文化は育たないと思った。